旭岳  雪倉岳    2867m・2611m        
      


 かつて百名山のピークハント目的で旭岳に登ったことがある。その際、目にした山頂から北面に滑り込むパーティの勇姿がとても印象的だった。当時はBCを始めて間もない頃で、スキルも経験も無い私には北面滑降は無縁のことと諦めていた。あれから5年。所詮60の手習いで、相変わらず足前の方はさっぱりだが、相棒のサポート宜しきを得れば何とかなるのではと思うようになった。

 そんな折、群馬のKさんから猿倉を起点に、旭岳、雪倉岳、蓮華温泉、金山沢の周回ツアーのお誘いがあった。毎度のことながら、いたいけな老人虐待企画。長丁場で体力酷使系のプランなのだが、中々面白そうなのでつい乗せられてしまう。今回も二つ返事で同行させてもらうこととなった。


第一日目

2017年5月3日(水)

 安全が確保できる時間帯に大雪渓を通過しようと、午前2時に猿倉で待ち合わせた。自宅発で、こうした深夜の集合時間に間に合わせようとすれば、どうしても睡眠が犠牲になってしまう。そんな経験から今回は最寄りの道の駅で仮眠をとることにした。狭い車中ながら、ゆっくり休めたので体調は申し分ない。

 軽く朝食をとった後は、直ぐに支度をして2時20分、ハイクアップを開始する。今年の積雪量は昨年とは比ぶべくもない。駐車場から繋がった雪で楽々シール登行が出来るし、長走沢は完全に雪の下。渡渉に悩む必要もなかった。その代わりとでも言うべきか、それほど斜度が有るわけでもない大雪渓の下部に無数の雪塊が散乱していた。白馬尻辺りでこれほど大規模なデブリは今まで目にしたことが無い。


夜明けを迎えた


 標高1800mを越えた辺りで夜明けを迎えた。振り返ると頚城と思しき山並みが黒いシルエットとなって連なっている。4時間近くをノンストップで歩き続けると愈々胸突き八丁、葱平の急登が目前に迫って来た。この辺りは1週間前に雪崩の遭難事故があったところだ。手を合わせて犠牲になった方のご冥福を祈りつつデブリ帯を通過する。


大雪渓を埋め尽くすデブリ


左岸からのデブリ


シール登行するKさん

 


日の出を迎える



モルゲンロート



雪崩事故の現場 犠牲者のご冥福を祈る私


 斜度が一段と増し、シール登行が困難になったので、シートラーゲンに切り替えた。足元は10本歯のアイゼン。締った雪面に爪が小気味よく効いてくれる。マイペースで歩き続け、振り返ると珍しくKさんがやや遅れ気味だ。どうやら連休前に続いた激務がボディーブローになっているらしい。しかし、一たび滑降モードに転ずれば、別人のようにパワーが炸裂する方なので、失礼ながら余り心配はしていない。


シートラで登行するKさん



杓子岳をバックに登行する私



大雪渓を振り返る


 三々五々下山してくる登山者と挨拶を交わしながら登り続け、7時45分、白馬岳頂上宿舎に到着。雪面が緩むまでの時間調整も兼ね、ここで大休止とした。風の通り抜けない陽だまりでカロリー補給をする。空には薄雲が広がり、眺望も霞んで今一つだが、これは予報されていた通りの展開だ。


白馬岳頂上宿舎



杓子岳と鑓ヶ岳


 8時30分、スキーを背に小屋脇の雪壁を四つん這いで登る。登り終えてみれば、稜線、特に西側には驚くほど雪が少ない。白馬山荘から山頂にかけては完全に地肌が露出。まるで夏山の様相だ。


雪壁を攀じて稜線へ



白馬岳山頂 稜線には雪が少ない


 稜線を越えて雪が繋がるところまで歩き、滑走準備。短い距離だが、シールを外して旭岳との鞍部へと滑り降りた。最下点まで降りたところで再びシールオン。旭岳山頂までの標高差は150mほどだ。雪面には狭い雪稜を直登するつぼ足の足跡が残されていたが、我々は左から山腹を回り込むようにし、仰角を抑えつつ登った。


旭岳鞍部へ滑降



再びシール登行



清水谷は完全に埋まっているようだ



山頂には南側からアプローチ


 9時25分、どこが最高点か、分からないような細長い山頂に立った。愈々念願の北面から柳又谷の源頭に向かっての滑降開始だ。北面なのでアイスバーンを心配していたが、それは杞憂だった。出だしはかなりの急斜面、シュカブラを避けつつ慎重にターンを繋ぐ。それでも、あっという間に250mを滑り降りてしまった。


旭岳山頂



北面へ滑降開始



出だしはシュカブラで滑りにくいが、、、



次第にザラメに



柳又源頭の大雪原へと滑り込む


 ここからは余り標高を落とさないように試練のトラバース。最近不調の股関節に痛みが走る。それでもスキーはやはり早い。30分ほどで鉢ヶ岳との鞍部近くまで到達。ここで再びシールオン。三度目のシール登行を開始する。


延々と試練のトラバース



股関節が痛み遅れだす私



旭岳を振り返る



鉢ヶ岳の稜線へ


 稜線上は雪付きが悪いので歩かされるところもあった。夏道は避け、稜線通しに鉢ヶ岳を越えた後は再びスキー滑降。雪倉岳避難小屋からは雪を拾いながら限界までシールで登行。完全に雪が切れたところからシートラと換装が忙しい。


雪倉岳避難小屋が見えてきた



雪倉岳避難小屋


 露出した夏道を歩き。12時55分、5年半ぶりに雪倉岳の頂に立った。山頂には白馬山荘からやはり蓮華温泉に向かう4人パーティが先着していた。後で聞けば山岳フォトグラファーとして著名な菊池哲男氏の御一行様とのことだ。


稜線上は所々雪切れ



山頂まで後僅か



雪倉岳山頂より旭岳(右)を振り返る


 山頂で本日4度目のシールオフ。無木立の大バーンは斜度も適当。ザラメが続くのでとても快適だ。標高が下がると流石に雪面は荒れてきたが、それでも滑りには支障ない。


蓮華温泉へ滑降開始



雪面はちょっと荒れてきたが、まだ快適



うっかり滝の真上に出てしまい右隣の尾根を乗越す


 瀬戸川の右岸へ渡るポイントをうっかり通り過ぎてしまい、若干の登り返しを強いられたりしたが、本当の試練はそれからだった。ほぼ夏道通りとは言え、延々とトラバース、しかも私の弱点、お股を痛めつける右山足の連続なので辛い。

 似たような小沢がうんざりするほど次から次に現れる。最後に深い谷に行く手を阻まれたのでシールオフし、夏道沿いに滑降。最後はヒールフリーで若干登り、午後3時45分に蓮華温泉に到着した。


ようやく蓮華温泉が見えてやれやれ


 久々に13時間を越えるBC。天気はまずまず上々、私にとっては初めてのコースを体験できて達成感も一入。最後には秘湯で気持ち良く汗も流せ、終えてみれば疲労も心地よい大満足の一日となった。


行動時間 13時間25分


日目へ続く


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