朝日岳BC   1945m 群馬県            
 


2019年3月9日(土)

 中央分水嶺に位置する三国山脈は豊富な積雪量に恵まれる山スキーの聖地。なかでも谷川連峰はロープウェイやスキー場などの利便性から多くの人が訪れる。一方、大烏帽子山や朝日岳など宝川水系の山々は長いアプローチが敬遠されるせいか、余り人気が無いようだ。そんなイメージを一変させてくれたのは、昨年秋、馬蹄形縦走の際に朝日岳山頂から俯瞰した縦走路の東側に広がる美しくメローな山容。積雪期にはスキー向きの大雪原になるのではと強く印象に残った。

 思い入れは、いつのまにか形になってくれるもの。過去の山行記録を読むほどに一度訪れてみたいと思う気持ちは高まるばかり。そんな私に応えてくれるのは、頼りになる相棒、群馬のKさん。二つ返事で快諾頂き、念願の山域に足を踏み入れることとなった。

 今回もKさんの車に便乗。前々日の新雪がまだ道の両脇に残る山道、凍結に用心しながらひた走り、午前4時過ぎに宝川温泉に到着。温泉宿手前の路肩スペースに車を止めた。早速身支度を整え、4時45分、ハイクアップをスタート。前日か当日のものか判然としないが、しっかりしたトレースが一本ついているのが心強い。


ヘッデン点けてハイクアップ開始


 暗がりの中、宝川に転落しないよう気を付けながら、道路脇の崖っぷちぎりぎりに残る雪をつないでシール登高を続ける。板幽沢にかかる橋を渡った後は、ヘアピンカーブの続く林道をショートカットしながら先へと進む。


法面から雪崩たデブリを越える



トンネルに入るkさん



ベレー帽をかぶった大石が可愛い



宝川利水試験地



そろそろ林道終点


 7時10分、林道の終点に到着。ここから愈々布引尾根に取りつくこととなる。新雪は予想外に深く、先行するトレースには随分と楽をさせてもらった。しかし、本日出来立てのトレースとしては、どうも様子がおかしい。ハイクアップのトレースとは別にシュプールも一本あるのだ。標高1300mまで登ったところで、その疑問に答えが出た。先行者は前日、ここまで来て力尽き、引き返したのだった。


先行者のトレースに助けられたが、、、



トレースは途中で消え、ラッセルに励むKさん



同私


 ここからはKさんと交替で脛ラッセルに励むことになった。降雪から丸一日を経て落ち着いた雪はそれほど沈まないが、重く足に堪える。しかしその労苦を報いてくれるのは、青空の下の大展望。最初は武尊山や至仏山など、最寄りの山がショーアップ、標高を上げると白毛門から続く稜線、さらには谷川岳が次々に視界に入ってきた。


大展望に足が止まるKさん


 二つ目の小ピークを巻いたところでシールオフ。ナルミズ沢へと滑り降りる。滑降準備をしていると後続の方が追い付いてきた。埼玉から来られたSさん。今日は大烏帽子山へ向かわれるとのことだ。お話からひょっとしてと思い、帰宅後確認すると案の定、いつも記録を参考にさせて頂いている山スキーWebサイトの方だった。


本日の目的地 朝日岳


 ナルミズ沢下降点までは凡そ250mの標高差。滑り出しは部分的にクラスト斜面もあったが、谷間に入ればパウダーも残っており快適な滑降が楽しめた。下りきったところで再びシールオン、ナルミズ沢の左俣を詰める。


ナルミズ沢へ滑降



同上



同上




ラストパウダーを楽しむ



再びシールオンしハイクアップ



広大なナルミズ沢左俣



白と青しかない世界



凍結も美しい


 積雪に入射するふく射光の大部分は 表面から反射されると言われる。ナルミズ沢の周辺は俗に雪砂漠と称される見渡す限りの銀世界。加えてこの日は一年にそう何度も無い大晴天。広大な沢床を遡行しながら、四方八方から紫外線の集中砲火を浴びることとなった。

 顔や首筋はジリジリと焼かれ、アンダー一枚になっても汗が額から滴り落ちる。Kさんはシールの調子が悪く、緩み始めた雪の下駄が出来て苦労していた。灼熱地獄に耐え、12時35分、宝川温泉から8時間近くかけようやく朝日岳の頂に立つことができた。ご褒美は労苦に見合う谷川連峰の大展望。いつもとは違ったアングルのパノラマ景色、余りの見事さに言葉も出ない。


シールトラブルで苦戦するKさん



先行する私



同上



高度感も出てきた



山頂に大手



朝日岳山頂



谷川岳 芝倉沢の全貌が良く見える



白毛門へと続く稜線



至仏山 奥には燧ケ岳


 暫くすると後続の単独氏が追い付いてきた。聞けば我々より3時間遅くスタートしたとのこと。まだ30代の若さ、普段から持久系のスポーツで鍛えているらしい。それしても驚異的なスピードだ。

 パノラマを堪能したところで二回目の滑降開始。上部はまだクラストしている箇所もあるので慎重に。緩んだ雪面は文句なしの快適斜面。Kさんと小回りのシュプールを大斜面に2本刻む。後から若者が殆ど直滑降のように僅かなターン弧を描いて降りてきた。これを今風に言えば「かっ飛ぶ」と表現するのだろう。古希の爺さんには逆立ちしてもできない真似だ。


滑降するKさん



同私



小回り2本+直滑降1本のシュプール


 再びナルミズ沢の下降点に戻り、シールオン。ここから布引尾根へ250mを登り返さねばならない。疲れた足に鞭打ちつつ本日3度目のシール登高だ。


ナルミズ沢に別れを告げる



大烏帽子山(中央奥)も見納め



そして朝日岳も


 1時間かけて尾根筋へと登った後は、愈々ラストラン。気になるのは雪質。南向きの斜面だけに案じていた通り、たっぷり陽光を浴びた朝方のパウダーは立派なサンクラストへと変貌を遂げていた。こうした悪雪を楽しむ余裕のKさんを必死に追随する私の売り切れ寸前だった太腿は、この雪で完全にノックアウト。何度も立ち止まって足を休ませながら、何とか大ゴケもせず、林道へと滑り降りた。


布引尾根を滑降



同上



トンネル内の氷柱



右は崖、ここが一番怖かった



宝川温泉が見えてきた


 林道は多少の斜度はあるものの自動運転という訳にはいかないので手漕ぎの連続だ。今回のツアーは最後まで汗をかかせられる。陽も傾いてきた4時45分、宝川温泉に無事帰着。12時間に及ぶハードワークだったが、念願の景色と滑りを目一杯楽しんで完全燃焼の一日となった。

 ちなみにこの日、ナルミズ沢左俣から朝日岳には3名、同右俣から大烏帽子山へは4名がアプローチしたことになる。快晴の週末にしては入山者が多いとは言えない。やはり長丁場のアプローチに守られた群馬県最深の秘境だったのだ。



行動時間 12時間


Gear Voile Supeercharger Woman 164cm / Scarpa F1Tr


  
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