山梨・長野県 2524m | |
2010年1月16日 八ヶ岳南部の山々は北部のいわゆる北八つとは対照的に実にアルペン的な風貌を呈している。特に雪の季節はアングルによってはとても日本の山とは思えない。そのなかで唯一編笠山だけが、おっとりした女性的とも言える山だと思う。それに編笠とはよく言ったもので名が体を表している。最近は100名山優先で、魅力のある山、登りたい山に背を向けざるを得ないことが多いが、たまには浮気をしてもいいだろう。それに編笠山は人気も今ひとつのようなので厳冬期のこの季節、静かな山歩きを楽しめそうである。 例によって気象庁の週間予報をじっくりチェックして冬型が緩み長野県、山梨県に晴天が期待できる週末を選んだ。自宅を朝の4時に出発、中央高速の小淵沢ICから富士見高原GCへ向けて八ヶ岳の広大な裾野を登っていく。天気予報とはうらはらに次第に小雪が舞い始め、そのうち激しい降雪になった。ノーマルタイヤのまま富士見高原GCまで来たものの、雪がひどいので復路が心配である。念のため滑り止めを装着することにした。積雪が少なく平らなところを求めて走り出したが、これが大きな誤算、ちょっとした下りで滑りだしたら、ブレーキを踏もうが何をしようが車は止まってくれない。しばらく暴走したあと、アンチロックが効いてようやく停止してくれた。路面は傾斜しており状況も良くないが贅沢は言えない。四苦八苦しながらここで滑り止めを取り付け、再びGCの駐車場へと戻った。この辺りには他の車は一台もない。唯一の先客は、タクシーで乗りつけた5〜6名のパーティでいずれも1週間の山行に耐えられそうな大荷物を背負っている。このパーティに遅れること約30分、7時20分に登山を開始した。気になるのは天候、しかしこの頃になると雪は小止みになり、背後の南ア方面の雲が晴れてきたので天気は回復しそうだ。
そのうちスノーモンスター達が姿を現してきた、朝日に染まって何とも美しい。凍りついた枝がキラキラと輝いて氷の華が咲いているようだ。しかし冬景色を楽しむ余裕も標高が2000mを越えた辺りから吹き飛んだ。赤いマーキングテープがあまり見あたら無い上に、雪が深くなって太腿から腰まではまってしまう。円錐形の山なのでともかく上を目指せばよいと割り切って、少しでもクラストしたところを狙って歩くが、いかんせん雪は降ったばかりでバージンスノーとの格闘となった。膝で一旦、押し固め、その上に足を乗せ踏み固めると言ったラッセルワークを黙々と続ける。体調は決して悪くないが、還暦を過ぎた身にはとんでもない重労働で息が切れる。誰かラッセルを代わってくれ〜と声なき悲鳴を上げるが後から人の来る気配はない。ワカンかスノーシューをもってくればよかった。足元が不自由になっても、つぼ足よりナンボか増しだろう。 動物の足跡がいっぱい トレースが全くない
ようやく稜線に出る 中央アルプス方面
しばらく茫然と頂上に佇んでいたが、やはり日暮れまでの時間が気になる。八ヶ岳はもちろん、南アルプスの甲斐駒ケ岳、北岳や北アルプスの槍穂高、富士山、御嶽山等々、冬真っ只中の中部山岳地帯の大パノラマを網膜とデジカメのメモリーに思いっきり焼付けて下山開始。自分の切り開いたトレースを下るだけなので楽勝かと思ったが意外にそうでもない。それでも迷うことはないので気が楽である。太陽が西の南アルプスの山並みへどんどんと沈み込んでいくので、疲れた足に鞭打ってペースを上げる。時折シカの群れの見送りを受けながら黙々と下り、富士見平GCには3時45分に帰着した。結局誰とも会うことなく本日、新雪の積もった編笠山に登った物好きは私だけだった。 標高が2000mを越えた辺りから右手の指先が痺れだした。薄手のインナーに厚手の毛の手袋にゴアテックスのオーバー手袋をしていたにも関らずである。帰宅しても指先の痺れが続いている。どうやら軽い凍傷になったらしい。せいぜい零下20℃程度で風も大したことは無かったのに。この状態ではさらに厳しい冬山環境にはとても耐えられそうにない。これも老化現象の一つなのだろうか。そうだとちょっと淋しい。 行動時間 8時間20分
|